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経済・産業


豚流行性下痢(PED)で鹿児島県の子豚約2万7千頭が死亡

平成25年10月、沖縄県で豚流行性下痢(PED)が発生しました。その後、平成26年4月までに、23県でPEDが発生しています。
(豚流行性下痢とは:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構、動物衛生研究所のHPによりますと、豚流行性下痢(Porcine Epidemic Diarrhea; 以下PED)は食欲不振と水様性下痢を主徴とする豚の急性伝染病です。家畜伝染病予防法により、届出伝染病に指定されています。すべての日齢の豚が罹患しますが、特に若齢豚で症状が重篤化しやすく、哺乳豚での死亡率は時に100%に達します。症状は同じく届出伝染病に指定されている伝染性胃腸炎(Transmissible gastroenteritis;以下TGE)と酷似しています。)

鹿児島県HPによりますと、県内の141農場で発生し、うち89農場で沈静化を確認しています(南薩11、曽於5、肝属72、徳之島1)
(沈静化とは:発症・死亡豚が確認されなくなった状態で、農場内のウイルスの清浄化を示すものではない。平成26年4月11日現在)
豚流行性下痢(PED)発症頭数は約16万5千頭です。
(繁殖母豚:約13,000頭、肥育豚:約9万9千頭、子豚:約5万3千頭)
死亡頭数は約2万7千頭(ほぼ全て子豚)です。(発症・死亡頭数は3月27日集計時点 )
県が発生農場やと畜場などの畜産関連施設で疫学調査を実施したところ、以下の問題点が確認されました。
(1)農場やと畜場での確実な車両消毒の実施が確認できていないこと
(2)豚や飼料の搬入・搬出時における農場内専用の作業着や長靴等の使用が徹底されていなかったこと
(3)カラスなどの野生動物の畜舎内への侵入防止対策が不十分であったこと


国内(他県)の発生状況は、平成26年4月11日現在、以下の通りです。発生月 発生県(件数)

H25
10月沖縄県(1件)
11月茨城県(2件)
12月宮崎県(6件)

H26
1月宮崎県(22件)、沖縄県(2件)、熊本県(4件)
2月宮崎県(14件)、熊本県(1件)、愛知県(1件)、青森県(1件)、沖縄県(1件)
3月宮崎県(18件)、愛知県(5件)、高知県(3件)、岡山県(2件)、佐賀県(7件)、大分県(3件)、鳥取県(1件)、熊本県(2件)、福岡県(1件)、長崎県(1件)、埼玉県(1件)、千葉県(1件)、三重県(2件)
4月宮崎県(4件)、熊本県(7件)、佐賀県(2件)、愛知県(1件)、香川県(1件)、三重県(8件)、栃木県(1件)、群馬県(3件)、茨城県(1件)、千葉県(2件)、石川県(1件)、新潟県(2件)、愛媛県(2件)、福岡県(2件)、長崎県(2件)

東北:青森県(1件)
関東:茨城県(3件)、栃木県(1件)、群馬県(3件)、埼玉県(1件)、千葉県(3件)
北陸:石川県(1件)、新潟県(2件)
東海:愛知県(7件)、三重県(10件)
中四国:鳥取県(1件)、岡山県(2件)、香川県(1件)、高知県(3件)、愛媛県(2件)
九州・沖縄:福岡県(3件)、佐賀県(9件)、長崎県(3件)、熊本県(14件)、大分県(3件)、宮崎県(64件)、沖縄県(4件)

過去の発生状況
1994年頃から、豚流行性下痢(PED)の大規模な発生が相次ぐようになりました。
1996年は9道県102戸で発生(哺乳豚約4万頭死亡)
平成9年(1997年)以降の発生は下記のとおり

年次 戸数 発症頭数 備考

H9   3  185   大分,三重,長崎

H10  3  2,693  北海道(2)、三重

H11 2 812 三重

H12 0 0

H13 2 2218   鹿児島

H14 0 0

H15 0 0

H16 0 0

H17 0 0

H18 1 3 香川

H19 0 0

H20 0 0

H21 0 0

H22 0 0

H23 0 0

H24 0 0

海外の発生状況
中国:2010年以降,大規模な流行が確認され,100万頭以上の子豚が死亡したとされています。
韓国:2013年11月末以降,発生の増加が報告されています。
台湾:中国及び米国での発生と同様のウイルス株による発生が報告されており,2013年10月から2014年2月までに本疾病が疑われる子豚の死亡は,約12万7千頭と見積もられています。
その他のアジア諸国:ベトナム,タイおよびフィリピンで流行を確認
米国:2013年4月に初めて確認され,急速に拡大(3月19日現在:27州,計4,757件の発生)
カナダ:2014年1月に初めて確認され,3月21日までに4州で37件の発生
欧州:イギリス、ベルギーなどで発生していますが、散発的な発生のみで,大きな流行には至っていません。

動物衛生研究所のHPによりますと、PEDの主徴は水様性下痢であり、その臨床症状は伝染性胃腸炎(Transmissible gastroenteritis;以下TGE)と極めて類似します。下痢はすべての日齢の豚で起こりますが、発症率と致死率は哺乳豚で高く、日齢が進むに従って低下します。発症豚の日齢や症状は農場毎、そして発生毎に異なり、哺乳豚が無症状の場合と下痢をする場合とが確認されています。常在型では、新たに離乳舎や育成舎へ移動した豚が移動後2~3週間で下痢を呈することが報告されています。

哺乳豚:嘔吐と水様性下痢が認められます。特に10日齢以下の豚では黄色水様性下痢を呈し、急速に脱水状態となり削痩します。発病豚は3~4日の経過で死亡することが多く、致死率は50%前後、時に100%に達します。

繁殖母豚:母豚では食欲減退や元気消失、下痢および嘔吐が認められます。また泌乳の低下や停止が認められることがあり、哺乳豚の病勢悪化の原因となります。

肥育豚、育成豚:肥育豚や育成豚では食欲減退と元気消失、水様性下痢が認められますが、約1週間程度で回復し、死亡することはまれです。また、感染しても発症しない豚も多くいます。

予防と対策
PEDの伝播は、感染豚の糞便を介した直接的あるいは間接的な経口感染が主です。ウイルスは豚の移動、ヒトの出入り、そして糞便に汚染された器具などによって伝播します。したがって、ウイルスの伝播を断ち切るような衛生管理を日頃から実施することが重要です。清浄農場では、ウイルスの農場への侵入防止、農場内の被害増大につながる分娩舎への侵入防止、そして農場内での蔓延防止を多重的に行う必要があります。また、日常的な健康状態の観察を行い、病気の早期発見にも努める必要があります。

1) 農場へウイルスを入れないために
農場への車両、ヒト、豚の出入りを管理。具体的には、車両は消毒槽の通過および噴霧消毒を実施。特に豚の運搬車両は荷台の消毒を強化。訪問者は農場専用の履物と衣類を着用。導入豚は農場から離れた場所または農場内の隔離された検疫豚舎で2~4週間健康状態の観察。

2) 繁殖分娩舎へウイルスを入れないために
PEDは哺乳豚に大きな被害をもたらすことから、農場内では繁殖分娩舎へのウイルス侵入防止を図ることが重要。作業者は専従か、ワンウェイの作業。繁殖分娩舎では専用の衣類と履物を着用。また、定期的に豚舎を洗浄・消毒。

3) 農場内にウイルスを蔓延させないために
農場内でのウイルス蔓延防止のために、繁殖分娩豚舎と肥育豚舎で管理者と作業動線を完全に分離。いったん発生した場合には、早期診断によってその拡大防止を図り、子豚の損失を食い止める。発病豚群を完全に隔離するか、可能であれば、発病豚はすべてオールアウトして徹底的な消毒を行い、2週間の空舎期間を設定。発病豚は保温し、自由飲水させ必要であれば電解質の投与により脱水症状を緩和。また、分娩前1~2週の豚は別に確保した豚舎に移動させ、ウイルスが伝播しないよう、履物と衣類は専用とし、作業者は専従とするかワンウェイとして飼養管理。

4) ワクチン接種
国内では乳汁免疫の誘導を目的とした母豚接種用ワクチンが市販。具体的には分娩前の妊娠豚にワクチンを接種することにより、分娩後の乳汁中にPEDウイルス抗体の分泌を誘導。哺乳豚は抗体を含んだ乳汁を不断に吸飲することにより腸管粘膜面を抗体で覆い、腸管へ侵入したウイルスを中和し感染量を低減。このように、ワクチン接種の効果は受動的であることから、ワクチンの使用に当たっては、母豚と哺乳豚の飼養管理に加え、ウイルス侵入防止対策を始めとする衛生管理対策を確実に行うことが不可欠。